世界一受けたいハッカーの授業
非常に有名なある「ハッカー」の顛末というのがありますが、いつの時代も自分を「スーパーハカーだと信じて疑わない人というのはいるものです。
今回はそんな「スーパーハカー」がセキュリティ講座で巻き起こした騒動をご紹介しましょう。
ある小さな教室で先生をしている人のお話。
その教室には情報技術職の経験者もいれば、単位のためにどこからか送られて来る人もおり、17歳くらいの若い子が夏休みの退屈しのぎに来てる事もあったそうです。
実験室スタイルのその教室には、各生徒にパソコンが1台ずつ割り当てられていて、ワークステーションに接続してLinuxをネットワークブートするように作られていたそうです。ようするに起動のたびシステムをサーバから読み込むもので、サーバに入ってるシステムだけちゃんと面倒見ておけばいいわけですね。こういう教室にはぴったりでしょう。
そんな教室に、ピーマくん(仮名)という17歳の男の子がいたそうです。彼は自分をスーパーハカーだと思ってるタイプで、何かと言えば「なんだこのクソは?」とか「おーまいがっ! Debianも使ってないのかよ!」とか言って、さんざん授業を邪魔して来たそうです。
まあ確かにDebianは数あるLinuxディストリビューションの中でも先進的なシステムを持ってるんですが、コミュニティベースで開発されてるので、企業の開発してるディストリビューションに比べていまいち普及度は高くないんですよね。
もうこのピーマくんの生意気さ加減はひどいもので、超目立ちたがり屋。メイド喫茶でメイドより注目しちゃうくらい、目立とうとするそうです。
ピーマくんは教室でろくすっぽ言うことも聞かず、へたくそなスクリプトを書いたり、ネットに繋いで何かをダウンロードしようとしてたりしてたそうです。
ある日の事、生徒たちのコンピュータ・システムの一部に不具合を仕込んでおいて、それを見つけて直す、という特別研究をやることになりました。昼食前に生徒たちにそれを伝え、ランチに送り出した後、先生はみんなのコンピュータにそれぞれ不具合を仕込み始めました。たいていはネームサーバ(DNS)の設定をいじくったりして、一見ネットに繋がらなくなったかのように見せかけて楽しんだりしてたそうです。
それで一つ一つ不具合を仕込んでまわってると、なんとピーマのコンピュータにはログインできない。どうやらピーマくんは管理者パスワードを変更しておいたようです。もちろん別にすごいことでもなんでもなく、ちょっとエディタが使えて場所さえ知ってれば誰でもできることです。
このコンピュータのシステムは、サーバにあるものをロードしてるだけなので、管理者パスワードを変更してもそれが有効なのは次に再起動するまでの間です。ネット喫茶のパソコンと同じようなものですね。
また、どのコンピュータもssh(昔のtelnetの高機能版くらいに思っておいてください)が動いていて、公開鍵で認証できるようになっています。これは公開鍵とペアになってる秘密鍵を持ってるかどうかで認証する仕組みなので、そもそも先生はパスワード無しでもログインできます。
さらに先生は、backdoor(裏口)というアカウントを作ってありました。これは管理者権限をもってます。試しにこのアカウントでログインしてみたら、ちゃんと管理者としてコマンドが発行できたそうです。なんで気付かないですかねえ、ピーマくん。
そして先生は自分の席に戻り、ワークステーションにマイクを繋いで、ちょこちょこと仕掛けを始めました。ワークステーションにはsoxというコマンドベースの音声加工ツールがインストールされています。"/tmp/.../lmao"というディレクトリを作り、そこに音声ファイルをいくつか置きました。lmaoというのは "Laughin my ass off"の略で、「ケツ抜けるほど笑える!」くらいの意味です。
さらにピーマくんのマシンに戻って、スピーカーのボリュームを75%にして、さらにポケットナイフでボリュームのスイッチを切っておいたそうです。
そして30分後、他の生徒たちのマシンにも仕掛けをすませ、生徒たちが帰って来ました。ピーマくんはいつも通り5分遅れで戻って来ました。
先生はまず教室のみんなに「私が指示するまでキーボードに触らないように」と伝えたあと、自分の席のワークステーションの前に座り、忙しそうなフリをしていました。
ピーマくんは自分が変更しておいたパスワードで管理者ログインできるのを確認し、「へへん、どうだ俺のマシンには不具合を仕込めなかっただろう」という顔をしてました。
そこで先生はピーマのマシンにsshでログインし、コマンドを打ち込みました。
$ cd /tmp/.../lmao $ play haha1.wav
と、同時にピーマのスピーカーから、
管理者パスワードを変えちゃいかんだろ!!
という大きな声。
ピーマは驚いて飛び上がり、教室もしーんと静まりかえります。
そして次の瞬間、教室は爆笑の渦に巻き込まれました。
先生はピーマくんを睨みつけ、「何をしている? 遊んでないで課題をちゃんとやらないか」と言いました。ピーマは「これは僕じゃないーーー!」と言いましたが、聞いてもらえません。
先生はさらに数分待って、次のコマンドを打ち込みました。
$ play haha2.wav
かん高い声で教室におっぱい! おっぱい! 私の小さなおっぱい!という歌が流れました。
もう教室中、涙を流して笑いころげてますが、先生は真面目な顔で「ピーマ、私の授業をもう1度邪魔したら、出ていってもらうよ。いい加減にしなさい」と言いました。
さらに数分後、ピーマは狂ったようにキーボードを叩いて、何が起きてるのか捜しだそうとしています。ここで先生はグランドフィナーレを飾る最後のコマンドを入力しました。
$ play haha3.wav
ピーマのスピーカーから神様のような声で、
教室のみんな、よく聞きたまえ。先生の授業に耳を傾けず、管理者パスワードを変えたり課題を無視したりすると、こうなるのだ! 以上
ここでようやくピーマも仕掛けに気付き、「わかった、わかった、もうお手あげだ」と言って両手をあげたそうです。
それ以来、ピーマくんはすっかり真人間になり、教室にはかならず5分早く来るようになったんだとか。