2008年01月25日 05:19

「IPアドレスは個人情報」とEUの組合が主張しているのでウェブ時代のプライバシーについて考えてみた

 
IPアドレスが個人情報……?

「IPアドレスは個人情報として扱われるべき」

そんな発言が今週、EUデータプライバシー組合の代表者から飛び出たようです。

インターネットを使ってる人なら一度や二度は聞いたことある「IPアドレス」という代物。ネットをそれなりに理解してる人ならトンデモ発言としか思えない内容です。

しかし一応真面目に消費者のプライバシーを考えてはいるようで、ツッコむべきかフォローすべきか非常に悩むお話。

ということで、ツッコみながらフォローしてみましょう。

EU data regulator says Internet addresses are personal information

上記記事を一部抜粋して意訳引用してみます。

ドイツのデータ保護グループの代表Peter Scharr氏は、EUの個人情報保護法に沿って、どのようにプライバシーポリシーが運営されているかということを、Google、Yahoo、マイクロソフト社、そしてその他のインターネットサイトについてレポートを作成しています。

彼によると「IP(Internet Protocol)アドレスから人が特定されるなら、それも個人情報としてみなすべきと伝えています。

IPアドレスは単にコンピューターの位置を特定するだけで、コンピューターの使用者を特定するものではないと主張するGoogleとは考えが異なります。

もちろんScharr氏はネットカフェや企業などのように一つのコンピューターを複数で利用する場合など、IPアドレスが必ずしも個人へリンクしているとは限らないというのは理解しています。

しかしこれらの例外でさえ、「Whois」サイトの出現を止めることにはならず、個人名や企業名を出すことになっているとしています。

確かにIPアドレスを「whois」しますと、そのIPアドレスの所有者(個人・法人)の名前が出てきます。しかし多くの場合それは接続ISP(インターネット・サービス・プロバイダ)の名前が出るだけで、よくて地域が推測できる程度の情報です。通常個人がIPアドレスを所有してる事は無く、多くは所有してる法人から一時的にアドレスを借りる形でインターネットに接続しているからです。

もちろんISPは貸し出したIPアドレスを誰が使ったかを記録していますから、ISPに問い合わせればその時間そのアドレスを使ったのは誰なのか判明します。ですが、通常ISPは「通信の秘密」を守る義務があり、裁判所の命令等が無くてはこの情報を開示することはありません。

また、IPアドレスは「アドレス(住所)」の名の通り、メールやウェブサイトのデータの送り先になるもので、これが見えなくてはどこにデータを送っていいのかわかりません。そもそも隠しては通信ができなくなるという性質のものです。

どうやら記事をよく読むと、この団体が問題にしてるのはプライバシーのようです。恐らくインターネットの仕組みをよく理解してなくて、IPアドレスから個人が特定できるかのように思いこんでしまったのかもしれません。

その証拠に、記事の後半ではcookie(クッキー)を問題にしています。cookieとIPアドレスは関連付けて使われることもありますが、基本的には無関係です。

去年Googleは他に先行して、検索情報の保存期間を18ヶ月に短縮することを実施しました。従来のデフォルトで30年あったものから、自動的に2年で期限切れするようにクッキーの制限期間も短くしました。

個人情報を擁護する非営利団体のEPICでは、保存されたIPアドレスの下2桁を隠すだけで特定を不可能にするとGoogleが主張していることに首をかしげているようです。

各企業が個人のことを知れば知るほど商業価値を手に入れるのと同じことになると言っています。

Google側では、Googleが収集したIPアドレスは、より確実なサービスを消費者にもたらすのだと、国際プライバシー顧問が言及しています。

個人の情報を侵害することなく、一般の傾向など価値ある情報を得るためとしています。

利用者がそれぞれの嗜好にあった広告をクリックする機会を与えるように、検索情報などを保存しているということです。

そしてIPアドレスを保存することは同じアドレスから同じ広告へ繰り返しクリックされる詐欺防止にも役立つとしています。

GoogleのCookie期限に関しては、30年間じゃなくて2038年まで有効になってました。昨年半ばごろから2年間に短縮されましたね(参考記事)。

そしてGoogleのcookieは特にIPアドレスと関連付けられてはおらず、IPアドレスが変わってもcookieは有効なままです。

Googleが検索や広告のために個人を識別するのに使うのはcookieであって、IPアドレスではないわけです。

つまりIPアドレスにこの場合はさほど意味が無いんですね。

マイクロソフト社はIPアドレスの記録をしておらず、Hotmailやメッセンジャーサービスのパスポートネットワークにログインさせる方法をとっています。

たぶんこの部分は間違いだと思います。ログインしてるからIPアドレスは記録しなくていいかというとそんなことはなく、例えばアカウント乗っ取りなどの事件が起きた時、そのアカウントで悪行を働いた時など、IPアドレスを元にプロバイダを割り出し、警察が本人に辿り着けるよう情報を開示させる必要があるわけです。記録してなければおそらく法例違反になる場合もあるのではないでしょうか。

ユーザーの個人情報保護という点で、データの保存がどれくらいなされるかという問題より、いかに匿名性が完全になるかのほうがここでは重要であるとしています。

そもそもこれは無茶な話です。

最近ブログ界隈では匿名実名論争がぽつりぽつりと出ていますが、そもそもインターネットで匿名性を確保するのは非常に難しいことです。

確かに匿名でも活動できるようには見えるのですが、実際には先程書いた通り、契約したISPは名前も住所も持ってるわけですから、法的な手続きを取れば実名はすぐ明らかになります。

つまりは誰も告訴など法的手続きに入らない限りは匿名でいられるということに過ぎないわけです。

もちろんそのときに使われるのはIPアドレスです。IPアドレスとアクセス時刻をもってISPのログと付き合わせれば、誰が契約した回線からアクセスしたかわかります。

ですが先程も書いたようにこれは法的な手続きが必要になるはずなので、無闇に問い合わせても教えてもらえるわけがありません。いくらなんでも個人情報だと言うのには無理があるでしょう。

ウェブ広告時代のプライバシー

しかしながら、こういった勘違いに近いものを除けば提言してることは至極まっとうです。

私たちはそこらじゅうのサイトに貼られてるGoogleの広告に、毎度自分固有のIDが入ったcookieを送っています。そこからGoogleは私たちの趣味嗜好を推測し、極力マッチした広告を出そうとしています。

それをプライバシー侵害だと言えば、確かにそういう側面はあるでしょう。

もちろんメリットもあります。広告は嫌う人も多いのですが、広告無くしてよい商品、自分に合う商品を見つけることは難しいことでしょう。

趣味嗜好が細分化された現代では、なおのことです。

マスメディアでの画一的な広告は万人受けを目指さざるを得ず、口コミ(これも広義の広告と言えるでしょう)では個人の情報量に頼らざるを得ません。

インターネットのコンテンツマッチ広告やリスティング広告、Cookieからの情報を元にした広告は、マスメディア並みの情報量を口コミ並みのニッチさで提供してくれるとも言えるわけです。

言い方を変えればプライバシーを売り渡す代わりに自分にマッチした情報を得るとも言えます。

こういった事は別にGoogleだけがやってるわけではなく、Amazonなど他のウェブ広告を出してるところもやってます。うっかり友人のいたずらでアマゾンの18禁商品のリンクを踏んでしまったら、しばらくAmazonの広告やお勧め商品にその手のものが出てきてうんざり、なんてことは経験した人も少なくないでしょう。

そしてプライバシーってそんなに大切だっけ?という感覚も少しずつ広まってるようにも思えます。

Googleに自分が見てるサイトの情報をくれてやるくらいどうってことはないと考える人もいるでしょう。また、最近人気のあるustream.tvという誰でも動画配信できるサービスを利用して、ひたすら仕事してるところや友達とじゃれあってるところを世界中に生放送してる人たちも増えています。

確かにプライバシーというと大切で守らなきゃいけないものと思いがちですが、冷静になって考えてみると見られたところでどうということはない事のほうが多いような気もします。部屋を見渡して、どれを見られたらどう困るのかと考えてみると、困るものを探すのが意外に難しいのにも気付きます。確かに散らかってるのを見られるのは恥ずかしいという気もしますし、引き出しの中身までは見られたら困りますけども。

もちろんプライバシーを軽視するのがいいことだと言うつもりは無いですが、そういった時代的感覚の遷移も、インターネットには見られるようにも思えるのです。

これが一時的なものなのか、それともゆっくりと変わっていくものなのかはまだわかりませんが、新しい時代の新しい価値観として考えてみるのもおもしろいかもしれません。

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1. IPアドレスの話  [ ジャージとランデブ ]   2008年01月25日 08:11
IPアドレスについて分かりやすい記事を見つけたので思わずトラックバック。 にしても、まだまだIPアドレスを誤解する人は多いのですね。 プライバシーとIPアドレスの関係をあまり考えず、IPアドレスと個人の「特定」ということだけに注目すれば、これら2つに関係はあまりあ...
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