ハッカーに憧れちゃう子供たちが知っておくべき有名ハッカー5人
先日、こんなニュースがありました。
中国語で「ハッカー」は黒客(ヘイクー)と言うのだと電脳コイルで言ってましたし、この記事でもやはり「黒いもの」、つまり犯罪者扱いですね。
一般的な認識でも「ハッカー」というと他人のコンピュータに侵入する人という意味で記憶されてるようです。
しかし、本物のハッカーたちの間では、そういう意味では使われてません。
さて、本物のハッカーはどういう意味で「ハック」や「ハッカー」という言葉を使うのでしょうか? そして本物のハッカーとはいったいどんな人たちなのでしょうか?
ちょうど出しそびれていた本物のハッカー5人を紹介する記事がありましたので、それとあわせてご紹介します。
「ハッカー」とは、もちろん「ハック」する人のことです。さて、「ハック」とはなんでしょうか?
これは山形浩生先生のWhat's a hack?が詳しいのですが、あえてこちらからも説明させていただきましょう。
辞書を引いてみると、
- 切る, たたき切る; 切り刻む
- 切りつける ((at))
- 切り開きながら進む ((through))
- 台なしにする, (文章を)ずたずたにする ((about))
- (土地を)耕す
- 【ラグビー】(相手選手の)向こうずねを蹴(け)る
- 【バスケット】(相手選手の)ボールを持つ腕を打つ
- 〔俗〕 うまくやらかす
- 空咳(からせき)をする
- 【コンピュータ】(プログラムを)巧妙に改変する[して楽しむ]
こんな意味が載っています。
これを見ると最後の「プログラムを改変して楽しむ」という意味なんだな、と理解してくださる方もいらっしゃいます。
しかしこれも実は正確ではありません。
実はハッカーたちの間で使われてる「ハック」に一番近いのは、この中では「うまくやらかす」です。辞書によっては「ものを叩き切ってものを作る」という意味が書かれてる事もあります。これも非常に近いです。
一番近いと思われる意味は「手間をかけずに目的を達成する」です。
最近「lifehack」、ライフハックという言葉がよく聞かれるようになりましたが、あれもちょっとしたアイデア一発で生活を便利にする、というような意味ですよね。
コンピュータにおけるハックも同様で、ちょっとしたアイデア一発、ちょっとしたプログラム、ちょっとした改変で、うまく目的を達成する。それを「ハック」と言うのです。
悪く言えば「手抜き」です。「手抜きだけど一応目的は達成してるでしょ?」ということなんです。
ですから真面目な場では「それはハックだからダメ」と言われることもあります。手抜き料理は主婦の味方ですが、レストランの厨房でやったら怒られるのと一緒です。
もちろん中にはその「ちょっとした」ことで劇的に効果が現れることもあります。そういうのは「すごいハックだ」と賞讃されます。
このような「すごいハック」は、「ちょっとしたアイデア一発」というよりは、他の人がなかなか気付かない近道を発見する行為とも言えます。
こういう「すごいハック」を連発するすごいプログラマーを、いつしか「ハッカー」と呼んで賞讃するようになったわけです。
ですから、ハッカーのほとんどは善良な人たちです。手抜きを愛するような人たちですからもちろん真面目とは言いがたいですが、他人に被害を与えて喜ぶような人たちではありません(いたずらは大好きですが)。
なので他人のコンピュータに侵入するような「自称ハッカー」の事を「クラッカー」と呼んで忌み嫌っています。
とはいえ「ハッカー」という言葉がひとり歩きしてしまい、自分たちの使ってる意味で一般の人が理解してくれないということも、ハッカーたちは認識しています。
そこで善良なハッカーを「ホワイトハットハッカー」、クラッカーのことを「ブラックハットハッカー」と呼ぶ人たちもいます。
さて、そんな「本物のハッカー」、「ホワイトハットハッカー」の頂点とも言うべき5人をご紹介しましょう。
ステファン・ウォズニアック
「Woz」のニックネームで知られるステファン・ウォズニアックは、MacやiPodで有名なアップル社の「もう一人のスティーブ」です。創業者の一人でもあるウォズは、タダで電話がかけられる箱なんかを作って遊んでたようです。ウォズともう一人の創業者で現CEOのスティーブ・ジョブズは、その電話がタダでかけられる箱をクラスメイトたちに売っていたそうです。
このへんはちょっと「ブラックハットハッカー」ですね。
ウォズニアックは大学をやめたあと、ジョブズと組んで個人向けのコンピュータを作って売る事を始めます。当時のコンピュータといえば大企業や研究機関にある大型のものばかりで、個人が所有するなんて発想はなかったと思われます。
それを実際に個人でも買える値段で実現してしまったのは、偉大なハックと言えるかもしれませんね。
ティム・バーナーズ=リー
ティム・バーナーズ=リーは、World Wide Web、ウェブサイトやブログなどの基盤を発明した人です。ウェブのアドレスがhttpで始まるのも、多くのサイトに「www」がついてるのも、この人が発明したときにそう決めたからです。
学生時代は友達と大学のコンピュータで「イタズラ」をして使用禁止にされたりもしたようですが、その後の業績はご覧のとおり。バーナーズ=リーが発明した「ウェブ」は、世界を一変させるほどの成長を見せました。
ウェブの世界はいろいろ足りないものがあってつぎはぎだらけでその場しのぎの解決がたくさん使われてて、ページの見え方やデザインすら見る人によってぜんぜん違ってしまうこともあるような代物ですが、それでもちょっと勉強すれば誰でもページを作って公開できるという簡便さ、シンプルさが、世界の常識を変えてしまいました。
20世紀最大のハックの一つでしょう。
リーナス・トールバルズ
リーナス・トールバルズは、言わずと知れたLinuxの作者です。
1991年、リーナスがまだ大学生だったころに発表されたこの小さなOSは、常識はずれの開発手法でまたたく間に世界中に広がっていきました。
世界中のサーバやワークステーションに採用され、二宮町のようにパソコンとしても使われています。
また、DoCoMoのN901シリーズなどの携帯電話でもLinuxが採用されたり、カーナビやエレベーターの制御システムにも使われています。
フィンランドの大学生が作ったOSがこれほど広く使われる事になろうとは、誰も予想だにしてなかったでしょう。
OSを作ったことそのものもさることながら、あえてモノリシックという古いアプローチでシンプルに作ったこと、世界中のハッカーの手を借りて作り上げたバザール型と呼ばれる事になる非常識な開発手法など、いろんな角度から「偉大なハック」と言えるしろものだと思います。
リチャード・ストールマン
リチャード・ストールマンのハックは実に政治的です。
もちろん普通のソフトウェア開発者としても偉大なハッカーです。熱狂的なファンが世界中にいるEmacsや多種多様な開発環境で大活躍しているGCCなど、「これがなかったら仕事にならない」と言えるようなソフトウェアを開発してきたハッカーです。
しかしストールマンの真骨頂は、こういったソフトウェアをコピーレフトで配布したことです。コピーレフトとはコピーライト(著作権)に対する造語で、誰もが平等に著作物を改変し再配布できなければならないという強い考え方です。
この思想に共感したり、近い考え方を持つハッカーたちが、同様にコピーレフトでたくさんのソフトウェアを書き、大きなオープンソース運動に発展していきました(参考記事)。
コンピュータのみならず、そのあり方、その後のビジネスへの影響もふくめて、信じられない程の「ハック」を成し遂げた人物と言えるでしょう。
下村務
写真はこちらから拝借
下村務ほどドラマティックなハッカーもいないでしょう。
映画みたいな話なのですが、90年代前半、FBIが追っていた全米指名手配の史上最悪のクラッカーであるケビン・ミトニックとインターネットを舞台に激しい戦いを繰り広げたという人物です。
実際にテイクダウンという本になり、これを原作としてザ・ハッカーという映画にもなりました。
Top Five (5) Best Non-Criminal Hackers of All Timeより。
(10/10)追記:下村務さんの父親は、このたびノーベル化学賞を受賞された生物発光研究者の下村脩さんだそうです。なんとも凄い親子ですね。
参考:ノーベル化学賞を受賞した下村脩氏の息子下村務氏は超凄腕ハッカー - 空気を読まない中杜カズサ
誰もがハッカーになれる
上にあげた5人のような偉大なハッカーは別として、ちょっと生活を便利にするライフハックや上手な手抜き料理など、身近なところでできる「ハック」はたくさんあります。
そういう意味では誰もがハッカーになれるし、家事のプロフェッショナルなどは偉大なハッカーと呼びたくなるような人もいます。
家事に長けたお母さんたちはみなすばらしい「ハッカー」ではないでしょうか。
冒頭に紹介した上海の小学生のようにハッカーに憧れるのは自由ですが、意外と身近なところにそういう「ハッカー」がいることに、気付いてはくれないのでしょうかね。
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クラッカーVSハッカー