辞書にも教科書にも載ってない、欧米の小さなマナー
数年前の中学校2年生の国語の教科書に、西江雅之著の「伝え合い」という単元がありました。
学習のねらいは、たとえ言葉が通じても,その使い手の属する世界や身に付けている習慣によって同じ言葉でも意味合いが異なってしまうことで、本文には言葉は通じているが、話し手と聞き手の意味のとり違いの例が載っています。
ひとつは、北東アフリカのソマリアという国の奥地で老人にこう尋ねられます。
「ところで、あんたの住んでいたところには羊がいるかね。」
そこで作者はこう答えます。
「いや、日本というところには羊はほとんどいませんよ。」
ところがそこの土地では羊だけが唯一の食べ物であって、
「羊がいない」=「食べ物がなくなってしまっている」
という意味であったというのです。
もうひとつは、海岸地帯から来た人々の中には、習慣上、他人に何かをしてあげて「ありがとう」という言う者がいるということです。普通なら「ありがとう」はしてもらったほうが言います。ところがそれと逆の人々がいるということなのです。
言葉をわかっていて明らかに通じていても、意味としてしっかり伝わらない可能性があるといういい例です。
こんな風に、言葉だけ通じても、意味が通じないこともあります。だから言葉を学ぶときには、できるだけその言葉を使う地域の慣習や文化やマナーを共に学ぶ必要があると、私は常々思います。
日本はそういう意味では、英語を学ぼうという気力がある元気な国ではありますが、慣習や文化やマナーには、いまいち気後れするのか習得には内弁慶で、気づいていない人が多いです。
自分の生まれ育った慣習というのはなかなか抜けないので、何もよその慣習どおりに生活しろということではありません。単に知る、あるいは知ろうとすることが実は大切だということなのです。
犬を食する文化のある人が、犬をペットとして飼っている人の家で、
「私は犬肉の味が大好きなんです」
と言うところを想像してみてください。言葉が通じてはいるでしょうが、その与える影響は計り知れません。
これは日本人が「クジラは割とおいしいです」なんて欧米の場で言うのもまったく同じことではあります。 相手の文化をよく知っておくのは大切なことなのです。
大きなタブーやマナーはネットなどやマナー本には載ってはいますが、小さなものは探してもなかなか載っていません。
タブーといっても暗黙の了解程度のものなので、相手の懐の大きい場合は平気なことも多いためです。
ということで小さな(運がよけりゃ大目に見てもらえる程度の)マナーを2つ紹介します。
小さなマナーその1.
動物を殺すという話題については気をつけよう。
殺すなんて言いませんよと言うでしょうが、いやいや日本人はかなりよく知らず知らずのうちに言ってるものなのです。
海外で一度日本人の友人Aさんと、英国人の友人Cさんと一緒になったことがあります。そのとき日本の友人Aさんがクモが嫌いだという話になりました。彼女には害虫に見えるらしく、会話の中でこう言いました。
「もう、この辺りはクモが多すぎる。殺しても殺しても家の中に入ってくる」と。
彼女がそう言ったとき、英国人の友人Cさんの顔がゆがんだのは私は見逃しませんでしたが、Kさんは全く気づいていませんでした。
私は心の中で、さすが動物愛護精神が世界一強い(うるさい)国の人だなと思いましたが、動物愛護にうとい国から来た人には、そこまで考える余裕はないと思われます。
英国人だけのことを言ってるわけではありません。イノシシが神聖だとか、蛇が神聖だとか、どの国でどの動物がどう崇め奉られているかわかったものではありません。
宗教になるとかわいいとか、キモイとか言ってる場合ではありません。ということで声高らかに動物を殺す話をするのは控えておきましょう。
小さなマナーその2.
相手が女性でなくても、誰であろうと向こうが言うまで年齢は聞かないのが理想的。
欧米では特に女性に年齢を聞くのは失礼だというのは、もうみんなが知るところとなりました。
英語圏では、人に Age and Wage(年齢と給料)は尋ねないというのがマナーということになっています。ところが、たとえば近所のおばさんと普通に会話していて、近所のおばさんが「私の父が明日誕生日なの」なんて言ったとします。
ここで日本人は9割以上、「おいくつになられるのですか」なんて聞きます。日本ではむしろ相手に興味持つような気遣いでもあります。
しかし、これもやめておくのが吉です。
こんなことでも、欧米人には野暮なことと思われてしまうのです。相手は若い人じゃないし、女性じゃないし、別に失礼でもなんでもないんじゃないの?なんて思うでしょうが、(多くの地域の)欧米人でそんなこと聞く人のほうが少ないのです。
もちろん外国人が尋ねても答えてもらえるのが普通ですから、日本人は別に失礼だとも思わずに、きっと別の人でも同じようなことを尋ねます。そして延々と気づきません。
もちろん80歳になるのだとか、60歳になるのだとか、キリのいい数字なんかだと向こうから言ってくれることもありますし、確かに年配の人は気になさらない方が多いのも確かです。とはいえ、その老人の薬でも処方するわけじゃないんだから、年齢知ってどうするんだって思われがちな話ではあります。
こんな風に文化ごとに小さなタブーがそこら中にありますが、小さなことだけに誰も教えてくれません。そしてきっとこう思う人も多いと思います。
「ちょっとくらい、いいんじゃないの」
もちろんいいのですよ。
丁寧さやマナーなんて個人差もあり、厳しくない人も大勢いますから。ただそう思う人は、英語より何でも許してもらえるような愛嬌ある笑顔の練習でもしましょう。
この程度のマナーだとやっぱり言葉より、愛嬌?で通じてしまうことも多いですね。
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なるほど・・・
英語難民の方は必見だと思います。