女子の試合で起こったちょっといい話
アメリカのオレゴン州、大学の女子ソフトボールで起きた話です。
両チームとも初めての決勝戦という大事な試合で、サラという選手がホームランを打ちました。ところが1塁をまわったところで彼女に悲劇が起こります。
ヒザを故障してしまい動けなくなったのです。
チームメイトが助けたり選手交代した場合、ホームランは無効になります。彼女にとって4年間で初めてのホームランでしたが、他に選択肢は無いと思われました。
そのとき、彼女を抱えてホームまで運んで行ったのは……
敵チームの選手だったのです。
ウェスタン・オレゴン大学4回生の、サラ・トゥホルスキー(Sarah Tucholsky)はソフトボールの決勝戦に出場していました。
対戦相手はセントラル・ワシントン大学。両校とも過去にディビジョン2のトーナメントで勝ち上がってきたことは無く、とても大事な試合だったわけです。
4月の試合、野次の飛び交う熱狂した観客、いつもと変わらない土曜日でした。
この日は1日に2試合を行うダブルヘッダーで、1試合目はウェスタン・オレゴン大学が勝っており、2試合目は0−0のまま進行していました。
「野次を黙らせたいと思ったの」サラはそのときのことをこう振り返っています。
「最初の球はストライク。そのあと打った球のことは覚えてなくて、覚えてるのはとにかく打ったということだけよ」
彼女の打ったホームランは場外に飛んでいきました。
4年間続けてきたソフトボール、チームも9連勝中で、彼女もヒットを打つなど活躍していましたが、ホームランはまだ一度も打ったことがありませんでした。
彼女はかなり小さい体格なので、この場面でホームランを打つなんて予想外のことだったのです。
それだけにこのホームランは、卒業前の最後の舞台で彼女がヒーローになれた瞬間だったわけです。
ところが興奮いっぱいに走る彼女は、1塁を踏み外してしまいました。
気づいた彼女は1塁に戻ります。しかしひざが故障してしまい1塁に戻る途中で崩れるように倒れてしまいます。
彼女はなんとか走ろうとしますが、もう1塁にもたどり着けません。
もしチームメートやコーチが助けると、ホームランは無効となります。
すでに塁にいたランナーはホームに帰ってきています。このホームランを有効にするには、彼女一人の力でホームベースに帰らなくてはいけないのです。
そのときのことをコーチはこう説明しています。
「4年間で初めてのホームラン、それを彼女から取り上げたくない気持ちが心によぎりました。それと同時に彼女のことが心配でした。」
彼女に直接手を差し伸べてしまえばアウトになるため、審判は次のように提案しました。「ルール上、残された選択肢は彼女を別の選手と交代させ、3ランホームランではなく、2点タイムリーヒットとして記録する」
コーチは「わかりました」と告げました。
すると横から「私たちが彼女を運んでベースにタッチさせてもいいでしょうか」という声が掛かります。
見ると相手チームのホルツマン選手でした。
同じくラストシーズンとして4年生の彼女自身も、シーズンが終わればひざの手術をすることになっていました。
彼女は試合の度にひざが痛みましたが、彼女にとっても最後のシーズンを欠場したくないため、手術を先延ばしにしていたのです。
そんな彼女が自分の最後の試合で、4年間敵チームの選手として知っているだけの相手を助けると申し出たのです。
ホルツマンとリズ・ワラスの2人で彼女を持ち上げ、ベースをゆっくりと回りました。確実に彼女をベースに踏ませながら…。
靱帯の損傷と思われる苦痛に耐えながら、サラはベースを踏んでいきます。
「ベースにタッチしながら3人で笑っちゃったわ。観客から私たちがどんな風に見えているのか想像できなかった。だけどおかしかったのよ。リズと二人で運びながら左足に触れないように気をつけたの。そしてその左足が優しくベースに触るようにしていたら、くすくすと笑えてきたのよ。」
あとで彼女はこう伝えています。
「正直言うと、私が同じ立場でも誰かがそうしてくれたらうれしいと思う。彼女にとって最後のシーズンのホームランよ。私はソフトボール経験が長いから、彼女に触れることができるのを知ってたの。私のアイデアだったけれど、きっと誰でも同じことをしたと思うわ。」
こうなると、どちらが勝ったかというのは重要じゃなくなるような気がします。
本当のスポーツマンシップとは何か。
3人がホームベースにたどり着いたときの、球場の鳴り止まぬ歓声と拍手が聞こえるかのようです。
Sportsmanship gets a lift, Central Washington offers the ultimate act of sportsmanshipより
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やさしい世界
号泣でした。
本当にじわ〜っとします